前回の記事:音楽と言葉は何が違うのか#2
音楽大学というと、全員ゾンビのような顔をしながら必死に形式ばった学術を学ぶところでもありますが、そういった事以外にも、思いもかけず重要な体験をします。これは私が個人的に体験した上で、今でも非常に大切にしていることです。
それは、授業でMiles Davisの "Two Bass Hit"という曲をピアノ、ベース、ドラムのトリオ編成で弾いていた時のことです。
このTwo Bass Hitはとても難しい曲で、タイミングの取り方も複雑怪奇。どうも巧いタイミングで良い音が出せずに苦労をしていたその時、先生が、
「このテンポで弾いてみろ。」
と、もの凄くゆっくりのテンポで手拍子したのです。
この時私は気づきました。本当に良い曲、良い音楽は、テンポを落としても良い音楽であり続ける。
このことは、とても新鮮な驚きと共に、意外な音楽の美しさを発見した喜びで、いつまでも心に刻まれています。テンポを落とした時にマズい音楽になるのは、テンポが速い時にはその間違いに気づいていないだけだったのです。
この影響から、私は今でも曲を作っている時に、良い感じで仕上がった曲をテンポを半分以下に落として聴き直します。この時違和感のある音を修正すると、通常の速度に戻した時には間違いなく良い音になっているのです。